本格的な訪問診療や医療を届けたい
本日はよろしくお願いいたします。まず、田中先生がご開業されてから感じた、物件の使い勝手や良いと感じる点について教えてください。
はい。やはり立地が良く、駅から近く、クリニックまで徒歩2~3分という点はとても良いです。周りにお店も多いので、スタッフもよく利用しています。
次に、今回の物件に至るまでの経緯について教えてください。
まず、訪問診療のエリアを選定する際に、「墨田区に本拠地を構えよう」という軸がありました。そこから、墨田区の各駅から近く、それなりの広さがある物件を探していたので、必然的に物件が絞られました。
田中先生は、最初から墨田区にエリアを絞られていましたね。墨田区という地で開業しようと決めた理由をお聞かせください。
病院勤務時代は、聖路加国際病院やがんセンターに所属し、直近の2年間は、西船橋で訪問診療をしていました。その後、東京に引っ越してきてからの6年間はずっと曳舟病院の非常勤で働いており、そこの救急外来で患者さんを診ていました。 そこで、訪問診療の患者さん自体は一定数いるけれど、みんながみんなちゃんと診療してもらえているわけではないということを、肌で感じていました。 なので、最後まで自宅で診療できるような、本格的な訪問診療や医療を届けたいと思い、墨田区での開業を決めました。
今回、物件を探すにあたって、当社に決めていただいた理由は何だったのでしょうか。
はい。今回、不動産選びの前に、開業コンサルタントとして医療機関M&A仲介も行っているG.C FACTORYに入っていただきました。そこで、銀行融資や資金面に関する相談などをさせてもらっておりました。その時に、エリアはどうするか、どのような戦略で開業していくかという部分を相談していた流れで貴社に物件の探索もご依頼しました。 不動産選定に関しても、私のバックグラウンドをちゃんと理解してもらった上で、一括してサポートしていただけた方が良いと思いお願いしました。
今回は、不動産の部分から開業支援や会計顧問まで、一括してサポートさせていただきました。一括サポートという点について、ご感想などあればお聞かせください。
そうですね。やはり、各チーム同士で情報連携をしていただけているので、毎回最初から説明しなくても済むという点は、とても良かったです。 恐らく、別の業者に入ってもらっていたら、スピード感も違ったと思いますし、確認漏れなども出てきて、流れが滞っていたと思います。特に、消防関連の話や資金面の相談もできたので、一括サポートをしてもらって良かったなと感じています。
「ここで働きたい」と思ってもらえるような物件選び
今回、物件を選定する際に重視していたポイントや、気を付けた点はありますか?
基本的には、訪問診療を専門にしているクリニックなので、内装に関しては患者さんの目にほとんど入ることはありません。なので、訪問診療の場合は、そこまで内装にこだわる必要はないと考える先生もいらっしゃると思います。ですが、私の場合はあえて内装にこだわりました。 やはり、スタッフの方に「ここで働きたい!」と思ってもらえる物件かどうかは、かなり重視しています。なので、立地や内装、外装はこだわりを持っていました。
新規で在宅クリニックを個人開業される先生は、コンパクトな物件を選ばれることが多い印象もありますが、田中先生は、物件の広さにもこだわりを持たれていたのでしょうか。
そうですね。患者さんやスタッフの規模に応じて、地域の医療を底上げしていくために、ある程度の広さは重要だと思っています。 地域の患者さんのニーズを考えると、「これくらいの部屋の広さは必要だろう」という、それなりの規模を最初から想定していました。それに加えて、スタッフから働きたいと思ってもらえるように、3年後、4年後までの将来を見据えて物件を選ぶことを意識していましたね。
今回、居抜きという点が物件のポイントとして挙げられるかと思います。居抜きの物件に決められた理由をお聞かせください。
現実的な話をすると、居抜き物件をそのまま使えているので、費用面でかなり助かるという点が大きなメリットだと感じています。 あとは、元々学習塾だったので、あまりクリニックらしくない内装や木材の感じが気に入ったことも、今回の物件に決めた理由です。内装のコストも削減できたので、とても良かったなと感じています。
今回の物件選びで「スタッフさんに働きたいと思ってもらえるような物件」という点を重視したとのことですが、実際にスタッフさんからの評判はいかがでしょうか。
スタッフからの評判はもちろん、見学や挨拶などで来てくださる方々からも「綺麗な内装だね」と言っていただけることが多いです。部屋の明るさや、木の温かさはとても好評です。
これから開業される先生に向けて、物件を探す上でのアドバイスなどがあれば教えてください。
そうですね。外来メインのクリニックなのか訪問診療メインなのかによっても戦略が変わってくると思いますが、「自分がどのような医療をしたいか」という部分が決まっていないと物件も決まらないと思います。 なので、自分のクリニックの理念や患者さんのニーズなどをしっかり固めてから、どのような場所が良いかを決めると良いのではないでしょうか。具体的なビジョンを考えてから物件を選べば、間違えることはないと思います。
チームとして、患者さんを温かく見守る医療
次に、「かりん在宅クリニック」という名称に決まった由来やエピソードがあればお聞かせください。
「かりん在宅クリニック」という名前は、音の響きが良いと感じたことが最初の一歩でした。 その音の雰囲気として、柔らかさや親しみやすさがあって、かつ長すぎないことや漢字よりはひらがなの方が良いと思っていました。 良い音を探していたときに、ふと「かりん」という言葉が思いつき、爽やかでやさしい、あたたかい雰囲気の音の響きを感じて気に入りました。 そこから、「かりん」という言葉の意味を調べていくと、フルーツの「かりん」は、中国で漢方薬として使われていて、長寿の象徴のようなフルーツであることがわかりました。日本では、のど飴やはちみつ漬けとして、昔から親しまれていますよね。 また、当て字として「火輪(かりん)」から連想すると、中心に患者さんを置いて、その周りに訪問診療や訪問看護ステーション、ケアマネージャー、地域の役所の担当の方などがチームとなり、輪を作って患者さんを温かく見守るという、まさに私が提供しようと思っている医療のイメージと結びついているなと感じました。結果として「かりん」の色々な意味を調べていく中で、自分のイメージに合っていたのでこの名前を選びました。
素晴らしいですね。では、現在の診療内容や取り組みについて詳しく教えてください。
はい。訪問診療を専門としているので、朝から夕方まで患者さんのところを周っています。安定している患者さんの場合は、だいたい2週間に1度、比較的不安定な患者さんや医療必要度の高い方の場合は、週に複数回訪問して、症状に変化はないか、診察上問題がないかをチェックした上で、薬の調整などをします。 また、自宅で生活していく上で必要になりそうな介護サービスなどを看護師さんやケアマネージャーさんに共有して調整していただくことをメインに行っています。 365日24時間患者さんからの電話が繋がるようになっているので、何かあった際には連絡をいただいて、夜中でも明け方でも土日祝日でも、臨時で往診できるように対応しています。
人と人が接することでしかできない在宅治療
田中先生が在宅診療を志したきっかけをお聞かせください。
病院勤務時代に、主に乳がんの外来抗がん剤治療をしていました。乳がん外来治療の場合は、エビデンスはもちろんありますが、患者さんの生活の様子や副作用の程度、生活背景、社会背景、価値観なども判断材料にいれて、薬や治療法を選択することが比較的多くあります。 ですが、基本的にはエビデンス・ベースド・メディスン(以下、EBMという)なので、がん腫が決まって遺伝子結果も見た結果、現時点でのベストが決まって、そこに基づいて治療していくのが基本中の基本です。 外来は短時間ですが、副作用が出ていないか、食事が取れているか、生活できるくらい動けているか、腫瘍マーカーやCT検査の画像所見で治療を継続するかと決めています。 昨今、AIの開発などが進んでおります。EBM重視の医療では、論文を読める量や蓄積できるデータに関して、人間はAIには絶対敵いません。そこにAIに人と同じような親しみやすさなどが備わった時に、目の前の医者よりもAIを信頼する患者さんが増える時代がくるのではないかと思っています。そういう時代が到来した時に、人間として医者として、どのようなニーズがあるかというと「人と人で接する領域」だと思います。 訪問診療では、高齢者の患者さんは、病気だけを診てほしいわけではなくて、患者さんの生活背景や価値観の部分を理解した上で、相談できる「パートナーとしての存在」が重要になってくると思っています。 私が力を入れている緩和治療に関しては、特に気持ちに寄り添って理解を示して、その上での共感やアドバイスが必要です。なので、人と人が接することでしかできない在宅治療には、絶対にニーズがあると思い、在宅診療を志しました。
田中先生が、患者さんとのコミュニケーションの中で気を付けていることは何でしょうか。
そうですね。本当に色々な方がいるので、言葉の使い方や接する距離感などには気を使っています。それぞれにパーソナルスペースがあるので、心を開いてくれるような会話や話し方などを意識して、訪問診療の場合は「患者さんに合わせる」ことを、最も大切にしています。
田中先生が感じる、かりん在宅クリニックの強みについて教えてください。
緩和ケア領域まで行っているという点です。まだまだ、医療用の麻薬の手法をしている先生自体が、実は全国で見ても少ないです。少ない理由は、恐らく、医療用の麻薬を扱ったことがなく不慣れだからです。 大きい病院になると、いい意味でも悪い意味でも分業になっているので、医療用麻薬を処方した経験や、緩和治療に携わったことがない先生もたくさんいます。そういう先生が訪問診療で開業するとなっても、処方したことのない薬に関しては、自信をもって処方することはできないと思うので、医療必要度の高い患者さんに対応できる、特に緩和ケア領域も対応できるような在宅クリニックは、実はそこまで多くないと思います。
患者さん中心の医療で、気持ちに寄り添う
田中先生が開業される前と後で、特に苦労した点をお聞かせください。
そうですね、開業したのが今年(2024年)の5月1日で、その日までスタッフ数が0でした。開業までの準備は全て私1人でしたので、正直なところ、めちゃくちゃ大変でした。(笑) 嵐のように過ぎ去ったので、記憶があまりないですが、届出の準備や各所に出向かないといけなかったことが、特に苦労しました。 開業後は、自分の中のクリニックのイメージや業務オペレーションを、スタッフと共有することに苦労しています。在宅診療をしたことのないスタッフもいるので、教えながらマニュアルを作っている段階です。どんどんマニュアル化をして、最終的にはその仕組みを回せるようになれば良いなと思っています。
患者さんへの想いやメッセージをお聞かせください。
私が大切にしていることが「患者さん中心の医療であること」です。患者さんが自分らしく生きられるように医療の面から支援することを大切にしているので、病院に通えなくなってしまった人や、人生の終末期に差し掛かっている方など、色々な方の気持ちに寄り添って、どういう風に過ごしていきたいかということを、相談に乗りながら支えていきたいと思っています。 なので、病院に通えなくなってしまったなど、困っている人がいれば、ぜひご相談いただければ、きっとお力になれるのではないかと思います。
最後に、田中先生の今後の展望についてお聞かせください。
はい。訪問診療のエリアを墨田区から台東区、江東区など広めのエリアをカバーしているので、まずは、そこの各事業所や地域の方々から信頼されることです。 クリニックを育てていくことになるので、患者さんの数が増えても医療の質は絶対に落とさずに、同じような理念を持って働いてくれる医者や看護師、その他事務員含めて、共感してくれる仲間を増やしていきたいと思っています。 とはいえ、単一のクリニックで地域の方全員を支えることは難しいので、その地域の看護ステーションやケアマネージャーさん、区の方などと一緒に仕事をして、地域全体の医療や介護のレベルの底上げができたら良いなと思います。 結果として、地域全体の患者さんがどこに相談していいかわからない、頼れる人がいないという人が一人残らずいなくなるような地域にしていきたいです。
田中先生の今後のご活躍を楽しみにしております。本日は、貴重なお話をありがとうございました。